研究所うんなんは、総勢22名のさまざまなご専門を持つ運営委員の皆様によって支えられています。
このたび運営委員の皆様にエッセイを執筆していただくことになりました。テーマは「当研究所との関わりやご専門の立場から市民の皆さんに伝えたいことなど」です。
第5回目は島根県立大学短期大学部教授・短期大学部長・保育学科長 梶谷朱美氏によりご執筆いただきました。
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「わくわくうんなんピック」
梶谷朱美
島根県立大学短期大学部教授
「やったあ!金メダルだ」
子どもたちは手作りのメダルをいただき満面の笑みでバスに乗り込みます。他園の友だちと一緒に遊べたうれしさや全力で遊びきった満足感でおしゃべりが弾みます。家庭に帰ってからもこの日の楽しさを家族に話している姿がうかびます。
これは、2012年度から雲南市子ども政策局と身体教育医学研究所うんなんが開催している幼児(3歳児~5歳児)の体力測定、「わくわくうんなんピック」の一場面です。筆者は、前職である雲南市立寺領幼稚園や西日登幼稚園で子どもと一緒に参加しました。
体力測定というと、「やらされる」「きびしい」「くるしい」と面白くないイメージがありますが、その名の通り、「わくわく」する仕掛けがいっぱいちりばめられ、子どもが主体的に関われる環境をスタッフの皆さんが心を込めて整えてくださっています。
子どもにとって、近隣の小学校や大きな体育館に出かけ、他園の友だちと遊べる特別な日であり、「走る(25M走)」「跳ぶ(立幅跳)」「投げる(ソフトボール投げ)」「バランスをとる(バランス歩行)」に挑戦できる、まさに「オリンピック」なのです。また、体力測定ばかりではなく、工夫された用具や遊びの場が準備され、スタッフの皆さんに温かく見守っていただきながら子どもも保育者も他園と交流しながら安心して遊べる時間でした。
2020年度に、わくわくうんなんピックは全国の健康増進活動を顕彰する「運動器の健康・日本賞」で最優秀の日本賞に選ばれました。わくわくうんなんピックは、2013年に策定された「雲南市幼児期運動プログラム」の成果を客観的に評価するために考案されたと伺っていますが、前述のとおり雲南市の幼児にとって、運動を楽しむ経験となり、子どもの意欲や能力を引き出す貴重な場となっています。
また、測定データは研究所で集計、分析され、施策に反映されると同時に参加園と保護者に分かりやすく伝えられ、保育者や保護者が「運動遊び」を切り口として、保育や日常のくらしを見なおす指標となっています。幼児の健やかな成長を地域で支える雲南市の象徴的な取組となって長年定着しています。一方、測定データをフィードバックするだけではなく、研究者との連携した検証により、近年では、島根大学の安部先生がコロナ禍における幼児の運動能力の低下を指摘し、全国に警鐘を鳴らしたことも記憶に新しいところです。
筆者は、6年前に雲南市を離れ現職ですが、一昨年から、民間の企業と連携し、保育者を目指す学生とともに幼児の体力測定を始めました。わくわくうんなんピックの種(たね)を県内各地へ広げ、島根の子どもにできるだけたくさんの金メダルを届けたいと奮闘しています。
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