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【連載】しまねの国保連載第52回 ​働き盛り世代の身体活動編「仕事中の座り過ぎで、死亡リスクが増加」

 みなさんこんにちは。雲南市の北湯口です。

 「〇〇の秋」という文をよく見聞きする季節です。この「〇〇」に皆さんは何を思い浮かべますか?個人的に今秋は「値上げ」の印象が強いですが、ちまたでは「行楽」「スポーツ」など活動系の文言が登場する機会が多かった気がします。コロナ禍による制限の緩和とともにさまざまな活動が再開され、体を使ったり動かしたりする機会が増えています。一方で、自粛の影響による体力低下を実感している方も多いのではないでしょうか。不活発な生活が続いた後、急に体を動かすとケガや故障の危険性が高まります。急な力仕事や運動には特に気を付けて、徐々に体を慣らしながら動くよう心がけたいものです。

 さて、今回は、仕事中の身体活動(主に事務系労働者)の実態とその対策についてお話をしたいと思います。それではよろしくお願いします!


仕事中の身体活動にも気を配ろう!


 働き盛り世代は、日常生活だけではなく、仕事中の身体活動にも気配りが必要です。多くの労働者が1日の3分の1を職場で過ごします。睡眠時間を除けば日中の半分は働いています。それだけに、仕事中の身体活動が持つ意味は大きく、働き盛り世代の健康を考える上で大事なテーマの一つとなります。


仕事中の座り過ぎで、死亡リスクが増加


 仕事中の身体活動を考える上で、特に気を付けたいのは、座る(以下、座位)時間の長さです。これまでの科学的知見でも、座り過ぎが働き盛り世代の健康を害することは多数の研究で証明されています。例えば、日本人成人を対象に、日常生活での座りすぎによる健康への影響を調べた研究では、1日の中で座位時間が3時間未満の人に比べ、8時間以上の座位時間の人では、疾病による死亡リスクが約1.2倍高くなっています(男性のみ)※1。また、仕事中の座位時間だけで見た場合でも、座り過ぎは死亡リスクや糖尿病の増加につながっていました※2。

 このように、座り過ぎは健康に決してよくないことがわかりますが、実際に働き盛り世代の人たちは仕事中にどのくらい座っているものなのでしょうか?


事務系労働の座り過ぎは防げるか!?


 例えば、デスクワークが中心の事務系労働者では、仕事中の70% 以上を座っている時間が占めていると言われています³。労働時間を8時間と考えた場合、事務系労働者は5時間半以上を座って仕事していることになります。そこから家に帰り、ご飯を食べたりテレビをみたりしてゆっくり2時間半も過ごせば、先ほど紹介した研究で示されていた、健康リスクが高まるとされる8時間以上の座位時間に、すぐ到達してしまいます。

 仕事上、事務系労働者は座ることを避けられない部分も当然ありますが、工夫する余地

は十分にあります。近年よく紹介されているのは、スタンディングデスクを使い、立って

デスクワークをする方法です。ただ、欠点としては、このデスク(やそれに類する台)を

準備する必要があることと、立ちっぱなしの作業で腰に負担がかかり痛めてしまうことが

あります。デスクを準備できる場合でも、足腰に負担がかかりすぎないように、立ちっぱなしを避けることや、ストレッチングを途中で行ったりしながら、取り組むことをおすすめします。


座り過ぎを防ぐ、効果的な方法は!?


 特におすすめしたいのが「30分に一度、座位を中断する」方法です。言い換えれば「30

分に一度は立つ」ことです。これには裏付けもあり、30分ごとに座位を中断することは、血糖値、疲労感、筋骨格系症状の改善につながると報告されています※4、※5。一瞬でも、とにかく座位を中断することに意味があります。一時的に立ち上がるだけですので、誰でも手軽に行え、仕事への影響も極めて小さく、どんな職場でも採り入れやすい、簡単でシンプルな方法です。健康経営にもつながる取り組みだと思いますので、ぜひ多くの職場で実践してほしいと願っています。


座り過ぎ問題の解決先進国に


 近年の労働者を取り巻く環境は、ICTの発展やコロナ禍の影響などで大きく変化しています(例:在宅リモートワーク)。こうした変化が働き盛り世代の身体活動に与える影響は、

皆さんなら想像に難くないことだと思います。

 日本は先進国の中で最も座位時間が長い国とされています(図)※6 。今や、座り過ぎは世界的な健康課題の一つですが、残念ながら現代日本はその先進国です。その解決の鍵は、座り過ぎを助長しがちなデジタル化推進やコロナ禍の波をうまく乗り越えること、そして、その影響を大きく受けやすい働き盛り世代の身体活動のこれからを考えていくこと、にあると思います。いつの日か日本が、座り過ぎ問題の〝解決先進国〟と言われるときが来ることを、心から願うばかりです。(続く)



(参考文献)

1. Inoue, et al : Daily total physical activity level and premature death in men and women:

results from a large-scale population-based cohort study in Japan (JPHC study). AnnEpidemiol. 2008 Jul;18(7):522-30.

2.van Uffelen JG et al. Occupational sitting and health risks: a systematic review. Am J Prev Med. 2010 Oct;39(4):379-88.

3.Fukushima, et al. Comparison of accelerometer-measured sedentary behavior, and light- and moderate-tovigorous-intensity physical activity in white- and blue-collar workers in a Japanese manufacturing plant. J OccupHealth. 2018 May 25;60(3):246-253.

4.Thorp AA, et al. Alternating bouts of sitting and standing attenuate postprandial glucose responses. Med Sci Sports Exerc.2014 Nov;46(11):2053-61.

5.Thorp AA, et al. Breaking up workplace sitting time with intermittent standing bouts improves fatigue and musculoskeletal discomfort in overweight/obese office workers. Occup Environ Med. 2014 Nov;71(11):765-71.

6.Bauman A, et al. The descriptive epidemiology of sitting. A 20-country comparison using the International Physical Activity Questionnaire (IPAQ). Am J Prev Med. 2011 Aug;41(2):228-35.

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