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【連載】しまねの国保連載第48回 ​つながりと身体活動編「子どもに広がる、体(運動器)の異変」

 みなさんこんにちは。雲南市の北湯口です。

 2月初旬に、出雲市立北陽小学校6年1組の「総合的な学習の時間」のゲスト講師として、45分間のオンライン授業を実施する機会がありました。“親の健康づくりに役立つ効果的な運動の仕方や注意点を教えてほしい”という子どもたちからの依頼を受けて、親世代の健康課題や身体活動・運動の正しく効果的な実践方法についてお話しました。子どもたちは、今回の授業に臨むまでにも、親への健康意識アンケートを実施したり、インターネット等で健康に役立つ情報の調査をしたりと、一生懸命に調査や学習を進めていました。授業前には子どもらしくはしゃいでいる様子が見えていましたが、親の健康を願い真剣に学習している子どもたちの姿を見て頼もしく感じました。子どもの健康を願う“親心”のように、親の健康を願う“子心”が感じられて温かい気持ちになれた、貴重でよい授業経験でした。ちなみに、学習成果は、子どもからの健康づくり提案として、直接親に伝えられるそうです。親御さんは子心をしっかり受け止め、必ずや運動を実践してくれると期待しています。親世代への新しい健康づくりアプローチの一手法として、とても参考になる取り組みだと感じました。

 さて、早いもので今年度の最終回です。今回は、子どものロコモについて考えたいと思ます。よろしくお願いします!


〝ロコモ〟にも気を付けよう


 〝コロナ〟への注意はもちろんですが、〝ロコモ〟にも十分気を付ける必要があります。

 本誌で何度か説明してきましたが、ロコモは、ロコモティブシンドローム(運動器※症候群)の略称です。加齢や、不活発な生活、関節の病気などで、日常生活に欠かせない運動機能の働きが低下した状態をいい、進行すると要介護や寝たきりのリスクを高めます。本来ロコモは高齢期を中心とする大人の健康不安ですが、最近では子どもにまでその心配が及んでいます。これは〝子どもロコモ※1〟として認識されており、明確な基礎疾患がないにも関わらず、運動器の働きが低下している状態にある子どもの増加が懸念されています。

※運動器:身体活動を担う、筋肉・関節・神経などの仕組みの総称


子どもに広がる、体(運動器)の異変


 実際に近年、学校現場の養護教諭等の先生たちから、子どもの体の異変を訴える声が相次いでいるようです(表1)。私も、たまたま先日とある教室で子どもが「転ぶときに手が出ない」場面に出くわしました。これまで話に聞く程度で、実際目のあたりにしたことはなかったので、本当にまったく手が出ずに転んでいたことと、その転び方の危うさに、驚きと心配(将来、転倒で大けがをするかもしれない…)を覚えました。過去と現在を比較できるデータがないことにはこうした異変を実証することはなかなかできませんが、「骨折」に関しては40年前と比べて小中学生の骨折が2~4倍に増加している※2、という結果も報告されています。長年子どもたちを見続けてきた先生たちの気づきは、現代の子ども全体の傾向を捉えていたと言っても過言ではなさそうです。

 こうした体の異変は、運動不足を中心とする不活発な生活習慣により、運動器の機能が低下していることが主な原因です。コロナ禍で不活発な生活様式が定着してしまえば、子どものロコモはさらに加速してしまうかもしれません。


表1 学校現場の先生たちによる子どもの体の異変への気づき



運動のやり過ぎも、ロコモの原因


 一方で、運動のし過ぎによるロコモにも注意が必要です。運動器の機能が低下するのは、運動不足や不活発な生活だけが原因ではありません。過度な運動で運動器に負担がかかり、身体を痛めるなどの機能障害が生じると、運動が制限されたり実施できなくなったりします。

 島根県で行われた子どもの運動器疾患の実態調査では、約6%の子どもが何らかの運動器疾患にり患しており、学年が上がる(小→中→高)とその率は増加していました3。6%だと低く感じますが、子どもの疾患全体で見た場合には虫歯や視力低下に次ぐ高率で、決して軽視できるものではありません。

 軽視できない理由の一つに、〝運動器の痛み〟が挙げられます。運動器疾患は痛みを伴う

ことが多いですが、我慢すればなんとかやり過ごせてしまう場合も多いために放置されがちです。子どもの場合、未成熟な体の状態にも関わらず運動やスポーツをやり過ぎてしまうと、使い過ぎによる障害(オーバーユース症候群)に発展します。早期に痛みを訴えてくれれば問題ないのですが、整形外科の医師や理学療法士が言うには、「子どもは隠す。子どもが〝痛い〟といったときにはもう遅い」のだそうで、残念なことに大好きな運動種目が生涯できなくなることもあるようです。子どもから訴えがない分、私たち大人が、日頃から子どもの体の様子に気づけるよう目配り心配りしていくことが大切です。この他にも、痛みは、睡眠※4や生活の質※5にも影響するため、子どもの生活習慣や健康全般の支障も懸念されます。痛みはバイタルサイン(生命徴候)の一つとも言われるほど重要な指標ですが、それが運動器の痛みとなると、直接的に生命の危険に関わることがほとんどないためかサインとして軽視されがちです。

 運動器の痛みは先述のように子どもの生活や健康に影響を及ぼす上、それが将来にまで影響していく可能性もあります。実際、若い頃の運動器疾患は、将来の運動器疾患の発症リスクを高めるとの報告もあり※6、※7、子どもが高齢になったときのロコモや要介護・寝たきりにまでつながっていくかもしれません。子どもの運動器の問題は、将来一生に関わる可能性もあり、決してあなどってはいけません。


大人の一手間を


 子どもの身体活動をテーマに1年間お話してきました。初回で述べたように、子どもが元気よく身体を動かし健やかに育つことと、私たち大人が健康的に暮らしてくこととは、決して無関係ではありません。子どもの身体活動を見つめることが、皆さん自身の身体活動を見つめなおす機会にもなり役立つと考えお伝えしてきましたが、この1年を通して皆さんに少しでもこの想いが伝わっていれば幸いです。子どもの身体活動の減少には、サンマ(三間:仲間、時間、空間)不足だけでなく、大人の〝手間〟の不足も影響します。子どもの不活発に歯止めをかける一手間として、まずは私たち大人から活動的な生活を取り戻していきましょう。(子どもの身体活動編・終わり)


(参考)

1.林承弘ほか.子どもロコモと運動器検診について.日整会誌.2017;91:338-344.

2.Koga H, et al. Increasing incidence of fracture and its sex difffffference in school children: 20 year longitudinal study based on school health statistic

in Japan. J Orthop Sci. 2018 Jan;23(1):151-155.

3.葛尾信弘ほか.学校における運動器検診体制の整備・充実モデル事業―6年間のまとめ―.島根医学.2011;31(1):14-23.

4.Auvinen JP, et al. Is insufficient quantity and quality of sleep a risk factor for neck, shoulder and low back pain? A longitudinal study among

adolescents. Eur Spine J. 2010;19:641–649.

5.Balagué F, et al. Assessing the association between low back pain, quality of life, and life events as reported by schoolchildren in a populationbased

study. Eur J Pediatr. 2012;171(3):507-14.

6.Harreby M, et al. Are radiologic changes in the thoracic and lumbar spine of adolescents risk factors for low back pain in adults? A 25-year

prospective cohort study of 640 school children. Spine;1995 ;20(21):2298-302.

7.Yoshimura N. Risk factors for knee osteoarthritis in Japanese women: heavy weight, previous joint injuries, and occupational activities.

2022 . 3 J Rheumatol. 2004;31(1):157-62.

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