みなさんこんにちは。雲南市の北湯口です。今年の中国地方は例年より約1か月早い梅雨入りでした。といっても、長雨のジメジメした日は例年より少ないでしょうか(執筆時6月末)。あまり降らないのも困りものですが、一度に降りすぎるのだけはやめてほしいですね。昨年度はこの時期、日本各地で豪雨災害が発生して多くの方が被害にあわれました。島根県西部で発生した豪雨災害が記憶に新しいところです。大雨にならないことを祈るばかりです。
雨による災害は、自然災害だけではありません。梅雨時期に増えるのが、スリップして転倒することによるケガです。路上のマンホールや横断歩道などの白線の上、施設内の鏡面仕上げしたタイルの上など、路上の形状が変化する場所は、特に要注意です。雨の日には、①いつもより歩幅を狭め、②足の裏全体で路面を踏みつけるように着地、して歩くことを心がけてみてください。転倒時に受け身を取れるよう、傘を持たない手には何も持たないでおくこともケガを最小限にする大事な工夫です。
さて、今号では子どもの身体活動の実態を中心にお伝えします。よろしくお願いします!
子どもの身体活動は低下してる?
「子どもの体力低下」が叫ばれて久しいですが、その原因は何と言っても身体活動量(運動+生活活動)の低下にあります。では、子どもの身体活動はどのくらい低下しているのでしょうか?
2012年に世界的な医学雑誌で発表された身体活動の特集論文によると、なんと世界の13歳から15歳の約8割が、健全な発育発達に必要な身体活動量(息が上がるくらいの活動を 1 日最低60分)を満たしておらず、不活発な状態にあるとされました※1。さぞ日本人も低下しているのだろうと思いきや、そのデータに日本人の子どもは含まれていませんでした。これは約10年前の論文ですが、最近発表されたいくつかの論文でも、子どもの多くは身体不活動にあることが報告されています※2。ただ、それらの論文にも日本人のデータは含まれていませんでした。
日本人のデータが依然として示されない理由には、世界との比較が可能な、日本を代表する大規模な調査がいまだ行われていないことにあります。これはとても大きな問題であり、この状態を改善すべく研究者らはさまざまな活動や体制の強化を進めている最中です。
はっきり言えないけど、やっぱり低そう
ということで、残念ながら、日本人の子どもの正確な身体活動の実態はまだ誰もよくわかっていないのが現状です。ただ、こうした研究がまったく行われていないわけではなく、子どもの体力低下が問題視されるようになった20年以上前から、子どもの身体活動研究は小集団や地域を対象として盛んに行われるようになっています。
これは私たちの研究ですが、中山間地域の小学4年生から中学3年生の子ども1794 人を対象に、世界的に使用されている調査票で身体活動を評価したところ、年齢や男女による差はありますが、約7割から9割の子どもたちが身体不活動の状態にあることがわかりました※3。また、同じ調査票で、都市部の平均年齢11歳の子どもを対象に行われた研究では、男女ともに約9割が身体不活動だったようです※4。全国規模のデータではありませんが、やはり日本人の子どもも、身体活動がかなり低下している状態にあると言えそうです。
ただ、同じ「子ども」でも、調査をすること自体がとても難しい幼児や低学年の子どもたちの現状はほとんどよくわかっておらず、それもまた大きな課題となっています。
幼児の身体活動と体力
雲南市では、子どもの体力向上の取り組みの一環として、約10年前から市内の幼児を対象に身体活動と体力を測定する調査を実施しています。昨年度は新型コロナ感染症拡大の影響が心配されましたが、調査継続の要望が大きかったことから、各園の先生方と協力しながら予防対策を徹底して調査を行いました。現在、詳細な分析を進めている段階ですが、コロナ禍が影響してなのか、例年とはやや異なる結果が得られましたので、少し紹介したいと思います。
まず、身体活動については、身体活動量計(精密機器)を用いた評価をしていますが、これは例年に比べ大きな変化は見られませんでした。幼児に必要とされる1日あたりの身体活動時間(60分)も、おおむね満たされているという結果でした。体力については、「走る・跳ぶ・投げる」の三つの基本的な運動能力を測定しています。その結果として、「走る」と「跳ぶ」測定については数値が維持されていたのですが、なぜか「投げる(ソフトボール投げ)」動作だけが、測定を行った3歳から5歳のすべての年齢の子どもで明らかに低下していました。
感染予防で手を使わない影響?
コロナ禍にあって子どもたちの「身体活動」量や「走る」「跳ぶ」運動能力に低下がみられなかったことには、家庭や各園で子どもに関わる方々の日々の関わりと工夫が奏功したのかもしれません。一方で、「投げる」運動能力に低下が見られたことには、コロナ禍ならではの事情が潜んでいると考えています。
新型コロナウイルスの感染経路のひとつに接触感染(ウイルスが付着した手で目・鼻・口などの粘膜を触り感染すること)があげられます。特に幼児は、手や指を口でくわえたり、目をこすったりすることが多いことから、共有物に手で触れることによる感染の広がりに対して、家庭や保育の場はかなりの危惧を抱いたと思います。ドアを開ける、蛇口をひねるといった、日ごろ当たり前の生活動作にすら、気を配らなければなりませんでした。このような状況下で、子どもたちは手を介した遊びや生活動作等が制限されてしまい、そのことに関係するさまざまな動きの経験も大きく減少してしまったと考えられます。
「投げる」動作は、その物に触れて握ることからはじまります。その行為がなければ、物を離すことも、渡すことも、そして投げることもできません。このように、手で物を扱う多様な身体活動経験の減少が、「投げる」運動能力の低下という結果に表れたのではないかと考えています。
幼児期は身のこなしが急速に発達する大事な時期でもあります。そして、からだを使った多様な遊びの経験を通じて、学習理解の基盤を身につけていくとされる重要な発達段階です※5。コロナ禍の今は、子どもたちにこそ、多様な動きを経験できる工夫が必要かもしれません。 (続く)
(参考)
1. Hallal PC, Andersen LB, et al. Global physical activity levels: surveillance progress, pitfalls, and prospects. Lancet. 2012 Jul21;380(9838):247-57.
2. 田中千晶. 日本の子どもにおける身体活動の現状と課題. 子どもと発育発達. 2020. 18(1):22-31.
3. Abe T, Kitayuguchi J, et al. Prevalence and Correlates of Physical Activity Among Children and Adolescents:
A Cross-Sectional Population-Based Study of a Rural City in Japan. J Epidemiol. 2020 Sep
5;30(9):404-411.
4. Tanaka C, Kyan A, et al. Validation of the Physical Activity Questions in the World Health Organization Health Behavior in School-Aged Children Survey Using Accelerometer Data in Japanese Children and Adolescents. J Phys Act Health.2021 Jan 11;18(2):151-156.
5. 倉盛美穂子. 学びの捉え方を再考する―幼保小接続の観点から―. 体育の科学.
2021.71(4):247-251.
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