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幼児の投げる体力が低下 コロナ禍こそ多様な動きを経験できる工夫を!

 子どもの体力向上の取り組みの一環として、雲南市では、2012年度から幼児の体力測定事業(通称わくわくうんなんピック)を実施しています。今年度は、新型コロナウイルス感染症の予防対策を徹底しながらとなりましたが、各施設の先生をはじめ多くの関係者の皆様の協力で無事に開催できました。9月から11月にかけて市内17の保育・教育施設で測定が行われ、総勢539名の子どもたちが元気よく参加しました。



 この体力測定では「走る・跳ぶ・投げる」といった基本的な運動能力を評価します。継続的な体力向上の取り組みの成果なのか、近年は、これらの運動能力が少しずつ向上していく傾向が見られていました。ところが、今年度は「投げる(ソフトボール投げ)」動作の運動能力だけがすべての年齢の子どもで明らかに低下する結果となりました。


 4月から5月にかけて休園等の措置がとられた時期もあり、その後も様々な活動を中止・延期せざるを得ない状況が続いたため、本来であれば日々の活動を通して経験される身体活動の減少が懸念されました。しかし、各施設や各家庭では、感染対策に努めながらも様々な形式で子どもたちができるだけ楽しく体を動かせるように取り組みを工夫しながら継続していました。コロナ禍にあって子どもたちの「走る」「跳ぶ」運動能力に低下がみられなかったことには、保育に携わる方々の日々の関りや工夫が奏功しているのかもしれません。


 一方、投げる運動能力には低下が見られましたが、これにはコロナ禍ならではの事情が潜んでいると考えています。


 新型コロナウイルスの感染経路のひとつに接触感染(ウイルスが付着した手で目・鼻・口などの粘膜を触り感染すること)があります。特に幼児は手や指を口でくわえたり、目をこすったりすることが多いため、保育・教育現場や公園などの遊び場、家庭でも普段から共有していた用具や遊具を介して感染が広がるのではないかと危惧されました。さらに生活の中では、ドアを開ける、蛇口をひねるといった生活動作すら気を付けて行わねばなりませんでした。こうして、コロナ禍の影響により、手を介した遊びや生活動作等が制限されてしまい、そのことに関係する様々な動きの経験が大きく減少しました。投げる動作は、投げる物を触って握ることからはじまります。それがなければ、物を離したり、渡したり、投げたりする動作にもつながっていきません。


 文部科学省が平成24年に示した「幼児期運動指針」では、幼児期に経験する基本的な動きを「体のバランスをとる動き」、「体を移動する動き」、「用具などを操作する動き」の3つに分類しています。幼児期にこれらをバランスよく経験することで、タイミングよく動いたり、力の加減をコントロールしたりするなどの運動を調整する能力が高まるといわれています。「用具などを操作する動き」に分類される投げる動作は、からだ全体を使い、腕の振りや、肘、手首や指先をタイミングよく動かす、腕が鞭のようにしなるなど複雑な動作を順序良く行う力が必要で、遊びや生活の中にある多様な動きの経験が影響するものです。


 以上のことから、手を上手に使って体を動かしたり遊んだりする多様な経験の少なさが、投げる運動能力の低下という結果に表れたのではないかと考えています。幼児期は身のこなしが急速に発達する大事な時期でもあります。コロナ禍の今こそ、多様な動きを経験できる工夫が必要です。


 幼児が日々主体的に楽しく体を動かす経験は、体力を高めるだけでなく、その後の児童期、青年期への運動やスポーツに親しむ資質や能力を育み、様々な物事に挑戦する意欲や気力を高めます。また、良好な人とのかかわりができるようになるなど子どもの心の発達にも良い影響があることが知られています。

雲南市では、こうした状況下でも、刻々と変化する状況を見ながら安全に配慮し、家庭、地域と行政、関係機関が連携をとりコロナ禍でも子どもが多様な経験ができるよう工夫して活動を実施してきました。


 私たち研究所うんなんは、今後も子どもたちの多様な経験の機会が奪われないよう、多くの皆さんに正確な情報を発信し様々な活動を支えていきたいと考えています。



参考文献:

「子どもに『体力』を取り戻そう」2007,宮下充正

「子どものスポーツ」1998,武藤芳照

「幼児期運動指針」2012,文部科学省

「幼児期の運動に関する指導参考資料」ガイドブック第2集2015,スポーツ庁

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